「なあ宗近。拳銃はどこにある」
 いきなりの質問に宗近が眉をひそめる。
「なんの話だ。俺はチャカなんか、隠し持っちゃいないぞ」
「違う。お前のことじゃなくて、暴力団全般の話だ。警察がどれだけガサ入れしても、現物は全然出てこない。百件ガサして一丁出ればいい、なんてぼやく捜査員もいる」
 宗近はフンと鼻を鳴らし、「そんなの簡単なことだ」と話し始めた。
「チャカは使う時に買って、使い終われば捨てる。常識だ。数十万出せばいつでも買えるってのに、一度弾いて足がついた危険なチャカを、後生大事に持ってる馬鹿はいないさ。チャカは持ってるだけで一年以上十年以下の懲役だ。それに加えて実包まで持ってたら、三年以上または無期に跳ね上がる。誰だって臭いメシは食いたかないってことさ」
「けど、捨てるってどこに?」
「海にでも放り投げておけば、すぐに錆びついて指紋も出ない」
「そんなものなのか?」
「そんなものさ」
 納得がいかず、はぐらかされたような気分になってしまった。だが宗近の言葉は真相を言い当てているのだろう。密輸されてくる拳銃はかなりの量のはずなのに、市場に出回った途端、見当たらなくなるのだ。理由はそれしか考えられない。
「……お前は銃器関係の情報を集めているデカか。組対の人間だな」
 エスとして狙いをつけた相手に、シラを切っても仕方がない。椎葉は事実を認めた。
「そうだ。俺は警視庁の組対五課に所属する人間だ。拳銃の密売情報を得るために動いている。……お前、エス工作って言葉を知ってるか?」
「公安がやってるあれか。監視対象の組織に内通者を作って、情報を流させるんだろう」
「ああ。スパイを運用した捜査方法のことだ。俺たちは内通者のことをエスと呼んでいる」
「つまり安東はお前のエスだった。そういうことか」
「俺はお前を次のエスにしたい。――宗近。俺のものになれよ」
 直接的すぎる椎葉の誘いにも、宗近はまるで動じなかった。口の端をわずかにつり上げた。
「俺に警察の犬になれってか?」
「そうだ。飼い主はこの俺だ。gならちゃんとくれてやる。……俺のものになったなら、好きなだけ抱かせてやるよ」
 宗近が目を細める。
「本気で自分にそれだけの価値があると信じてるのか?」
「価値を決めるのは俺じゃない。……お前だろ?」
 椎葉は宗近にゆっくりと近づいた。指先でたくましい身体のラインを上から下へと撫でた後、静かに床に跪く。バスローブの合わせ目を開き、椎葉は躊躇いもなく男の象徴に唇を寄せた。
 まだ水分が残る黒い茂みに顔を埋め、舌先でペニスの輪郭をHる。何度も舐め上げていると、宗近の雄は徐々に硬くなり、やがて熱を帯びて完全に勃ち上がった。
 硬い弾力のあるそれを口に含んで、唇と舌を使い熱心に愛撫する。思っていたような嫌悪感は湧かなかった。それどころか男のものを舐めながら、気分はおかしなほど高揚している。張りつめた薄い皮膚はとてもなめらかで、椎葉は無心で心地よい感触を味わった。
 淫らがましい行為をしているのに、不思議と色仕掛けで迫っているという気持ちはこれっぽっちもなかった。この男のことをより知るためには、身体を使うほうが手っ取り早い。そう思えてきたからだろうか。
 宗近は何も言わず、椎葉のしたいようにさせている。どうせまた、小馬鹿にしたような目で自分を見ているのだろうと思って顔を上げると、視線がぶつかった。
 宗近の瞳には、今まで一度も見たことのない色があった。侮蔑とも嘲笑とも違うし、欲情のそれとも違う。強いて言うなら、何か愛おしいものでも眺めるような、慈愛に満ちた色合いだ。
 そんな目でずっと見られていたのかと思うと、急に息苦しくなった。なぜかはわからない。ただ甘いような情動に胸を締めつけられ、今にも息が止まりそうだった。