サンダーの謎
儀式を終えた後、ラウルとアシュレイが啓と一緒に暮らすことになった。 ほんの一、二週間程度しか離れていなかったのに、家に戻った時はなつかしくて涙が出そうだった。啓を除いた住人すべてを失ってしまった自宅は、がらんとして物寂しい。 唯一啓を喜ばせたのは、近くの駐在所で預かってもらっていたというサンダーとの再会だった。
庭の薔薇に水をまき、秋に備えて剪定を始めた。弱った枝を切り落とし、栄養を十分に行き渡らせるようにする。 今年は猛暑で薔薇の元気がない。寒さも暑さも感じないレヴィンにとっては分からないが、熱中症で倒れる人が後を絶たないという。切り落とした枝を片づけて、レヴィン・バーレイは蕾をつけた白い薔薇を見つめた。
赤毛のサムソンと言い出したのは誰だったか。 気づけば町内でラウル・リベラーニに逆らう者は誰もいなくなっていた。化け物みたいに強ぇガキがいる。隣町でもそう噂されるようになって、喧嘩を吹っかけてくる馬鹿も消えた。暴れたいのに相手がいない。ラウルは自分を持て余していた。
数年ぶりに顔を合わせたスコットは、すっかり少年らしさが消え、一人前の青年に成長してアシュレイの目の前に現れた。 「おめでとうございます、スコット」 儀式を終えた彼はもう立派な薔薇騎士団の一員だ。アシュレイは従兄弟であるスコットに対して礼儀正しく挨拶をかわした。スコットは整った顔に満足げな笑みを浮かべ、アシュレイの差し出した手を軽く握る。
啓が二十二回目の誕生日を迎えた翌日から、真夏のマルタ島には珍しく雨の日が続いた。温暖な気候のマルタ島だが、ここ数年は異常気象が起きているという。 薔薇騎士団の屋敷のバルコニーから濡れた庭を見下ろし、啓は今日の予定は中止だなと呟いた。三階にある啓の部屋から見える重苦しい雨雲と小雨は、晴れる気配を感じさせない。今日は女子修道院で世話をしている子どもたちと、地中海をクルージングする計画だった。いわゆる遠足みたいなものだ。雨天の場合は一週間後に延期になるのだが、子どもたちはがっかりするに違いない。
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